日本の株式市場は朝9時に始まり、15時に終わる。そう思っていませんか?実は、近年の研究によると、日経平均株価のリターンの大半は、この「取引時間外」に生まれているという、にわかには信じがたい事実が明らかになっています。

なぜ株価は「夜」に動くのか?見えない時間の正体

まずは基本からおさらいしましょう。東京証券取引所(東証)の取引時間は、平日の午前9時から11時30分(前場)と、12時30分から15時(後場)までです。多くの人にとって、これが「日本の株式市場が動いている時間」の全てでしょう。

しかし、これは物語のほんの一部に過ぎません。例えるなら、お気に入りのレストランの営業時間のようなもの。私たちが美味しい料理を楽しめるのはランチやディナーの時間だけですが、その味を決める最も重要な「仕込み」や「準備」は、客のいない早朝や深夜に行われていますよね。

株式市場も全く同じです。日本の市場が閉まっている間に、世界は動き続けています。ニューヨーク市場が開き、ロンドン市場が閉まる。AppleやGoogleの決算が発表され、重要な経済指標が公表される。これらのニュースこそが、翌朝の日本の株価を決定づける「仕込み」なのです。日本取引所グループ(JPX)が2023年に発表した計画では、取引時間を延長する案も検討されていますが、それでも世界の24時間の動きをすべてカバーすることはできません。本当に重要なのは、取引所の「営業時間」そのものではなく、その外で何が起きているかなのです。

リターンの大半が時間外?データが示す不都合な真実

「取引時間外にリターンの大半が生まれる」と聞いても、ピンとこないかもしれません。しかし、これは感覚的な話ではなく、データによって裏付けられた事実です。金融の世界では「オーバーナイト・リターン・パズル」として知られる現象で、市場が開いている時間(日中リターン)よりも、市場が閉まっている時間(オーバーナイト・リターン)のほうが、長期的にはるかに高いリターンを生む傾向があるのです。

学術誌『Journal of Financial Markets』に掲載されたある研究では、1998年から2018年までの日本のTOPIXのデータを分析し、驚くべき結果を報告しています。なんと、この期間の市場リターンのほとんどすべてが、前日の終値から翌日の始値までの間に発生していたのです。つまり、日中の取引時間中のリターンは、合計するとほぼゼロに近いというのです。

【なるほど!】 これを聞いて、どう思いますか?もしこれが本当なら、私たちが日中に必死で株価チャートを追いかけ、一喜一憂しているのは、リターンのごく一部を巡る熾烈な椅子取りゲームに参加しているようなものかもしれません。本当に大きな価値の源泉は、私たちが眠っている間や仕事をしている間に、静かに、しかし着実に生まれているのです。サッカーの試合結果が出た後に、選手たちのクールダウンを必死で分析しているようなもの、と言えるかもしれません。

「時間」の壁を越える、現代の投資戦略

では、日中働いている私たちは、この「時間外」のチャンスをどう活かせばいいのでしょうか。方法は大きく2つあります。

一つは、夜間取引(PTS:私設取引システム)を活用することです。SBI証券や楽天証券など、一部のネット証券では、東証が閉まった後の夕方から深夜にかけて株の売買ができます。例えば、19時に発表された好決算を受けて、すぐにその企業の株を買う、といった動きが可能です。実際に、ジャパンネクスト証券(日本最大のPTS運営会社)によると、PTSの取引シェアは年々増加傾向にあり、個人投資家の関心の高さがうかがえます。NISA口座でPTS取引ができる証券会社もあるので、非課税の恩恵を受けながら時間外取引に挑戦することもできます。

しかし、夜もチャートに張り付くのは現実的ではありません。そこで注目したいのが、テクノロジーを活用して「時間」の制約そのものから解放されるアプローチです。例えば、投資一任サービスの baln は、世界中の市場の動きや経済ニュースを24時間体制でアルゴリズムが監視し、ポートフォリオを自動で最適化してくれます。これは、まるで自分が眠っている間も働いてくれる、頼れる資産運用の執事を雇うような感覚に近いかもしれません。

結局、最強の戦略は「時間を気にしない」ことかもしれない

PTSや最先端のアプリは強力なツールですが、多くの人にとっての最適解は、もっとシンプルかもしれません。それは、そもそも「時間を気にしない」投資スタイルを確立することです。

iDeCoやNISAを活用したインデックスファンドへの積立投資が、その代表例です。これらの投資信託は、株式のようにリアルタイムで価格が動くわけではなく、1日1回算出される「基準価額」で取引されます。そのため、日中の細かい値動きや、夜間のニュースに振り回される必要がありません。

金融庁の「NISA口座の利用状況調査(2022年末時点)」によると、投資経験が長くなるほど、短期的な売買をせずに資産を長期で保有する傾向が強まることがわかっています。これは、多くの投資家が経験を通じて、時間の経過を味方につけることの重要性を学んでいる証拠です。日々のノイズから距離を置き、世界経済の長期的な成長に賭ける。これこそが、時間の制約がある個人投資家にとって、最も合理的で、心の平穏を保てる戦略なのです。

今日からできること

まずはご自身の証券口座にログインし、「PTS取引」や「夜間取引」のボタンがあるか探してみてください。たとえ取引しなくても、投資の世界があなたが思っているよりもずっと長く、24時間動き続けていることを知るだけで、明日からのニュースの見方が少し変わるはずです。